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東京高等裁判所 平成6年(ネ)231号 判決 1996年3月28日

主文

一  控訴人の控訴及び被控訴人榎本邦俊、同榎本秀之、同山崎雅弘の控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は、甲事件の控訴によって生じた費用は控訴人の負担とし、乙事件の控訴によって生じた費用は被控訴人榎本邦俊、同榎本秀之、同山崎雅弘の負担とする。

理由

一  次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由の一ないし四の記載を引用する。

1  原判決一〇枚目表五行目の「証人」の前に「原審」を加え、同一一枚目表三行目の「甲第五号証」から五行目の「弁論の全趣旨」までを「甲第五ないし甲第八号証、乙第八ないし乙第一二号証、乙第一六号証、乙第一七号証、乙第二七号証、原審証人佐草右造の証言、被控訴人榎本の原審及び当審における本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨」に改め、同六行目の「正規」の前に「昭和六二年ころは、」を、同九行目の「訴外明治乳製品」の前に「牛乳販売店を経営していた被控訴人山崎雅弘の紹介により」を加え、同一三枚目裏一行目の「被告ら」を「被控訴人榎本ら三名」に改める。

2  原判決一五枚目表一行目の「前記のとおり」から同末行の「また」までを次のとおり改める。

「前記一、二の事実に加え、《証拠略》によれば、訴外明治乳製品は昭和四〇年に被控訴人榎本の父の榎本義郎が、牛乳、アイスクリーム、乳製品等の食品類の卸小売業等を目的として設立した会社で、資本金は一六〇〇万円、代表取締役は榎本義郎、取締役は被控訴人榎本を含む榎本義郎の四子のみであり、代表取締役の榎本義郎は明治四〇年生まれで高齢のため、同人の長男の榎本孝彰が常務取締役として直営店の経営を、二男の被控訴人榎本が専務取締役として牛乳、乳製品及びコンビニエンスストア部門を、三男の榎本秀之が部長として業務用商品卸部門を、四男の榎本克也が阿佐ヶ谷支店長を、それぞれ分担していたこと、被控訴人榎本は主要取引先に一番精通していたことから、平成六年五月二六日代表取締役に就任したこと、被控訴人榎本は訴外明治乳製品のコンビニエンスストア部門の担当者として訴外明治乳製品がフランチャイジーとなっている前記各店舗におけるフランチャイズ契約の締結や営業の統括に当たっており、サンエブリー日本橋堀留店については個人の資格で保健所の食品営業の許可を受け、また、同店に関するフランチャイズ契約において自ら連帯保証人となっていたこと、ニコマートとしては、訴外明治乳製品と被控訴人榎本とは一心同体と受け止めており、本件フランチャイズ契約に関する情報資料などの書類は被控訴人榎本からの指示により訴外明治乳製品あてに郵送していたことが認められる。そして、右事実に、訴外明治乳製品の取締役である被控訴人榎本が、右のように訴外明治乳製品の営業の部類に属する取引を含む本件フランチャイズ契約の締結及びその営業行為を個人の立場で行うことについて、同人及び訴外明治乳製品において、取締役会の承認の要否などについて検討した形跡は証拠上認められないことを併せ考えると、訴外明治乳製品は、被控訴人榎本の父である榎本義郎を中心とし、被控訴人榎本を含む榎本義郎の親族で経営するいわゆる同族会社であり、被控訴人榎本はその中心的な立場で経営に関与していたものであって、被控訴人榎本の個人としての地位と訴外明治乳製品の取締役としての地位とは、客観的にも、主観的にも明確に区別されておらず、また、本件フランチャイズ契約に関しては、ニコマートにおいても、被控訴人榎本においても、右の点を明確に区別せず、むしろ一体のものとして扱い、又はそのように行動していたものというべきである。そして、本件フランチャイズ契約における」

3  原判決一五枚目裏四行目の「被告榎本」から五行目の「いうべきであり」までを「被控訴人榎本は、本件フランチャイズ契約第四七条(1)<4>にいう「競業他者とフランチャイズ関係を結んだとき」に該当するものというべきであり」に改め、同一六枚目表二行目の「本件全証拠によっても」の前に「《証拠略》によれば、訴外明治乳製品はフランチャイズ契約を締結した訴外株式会社ハーモニー、訴外新鮮組及び訴外サンショップヤマザキからそれぞれコンビニエンスストアの経営に関する独自の情報の提供を受けており、殊更にニコマートからの情報資料を使用する必要があったとは認められないのみならず、」を、同一〇行目の次に行を改めて「被控訴人榎本ら三名は、本件の違反は悪質なものではないから、本件フランチャイズ契約の解除事由には当たらず、また、訴外明治乳製品が他のフランチャイザーとフランチャイズ契約をした場合にも、本件フランチャイズ契約の解除事由となるというのであれば、契約の締結に際し、その説明をすべきであったのに、説明をしなかったものであるから、本件フランチャイズ契約を解除することは信義則に反し許されないと主張する。しかし、前記のような本件フランチャイズ契約の性質及び被控訴人榎本と訴外明治乳製品とは信義則上同視すべきものであることからすると、その違反は悪質なものではないとはいえないのみならず、ニコマートにおいて被控訴人榎本に対し、殊更に右のような説明をすべきであったとはいえないから、右主張は採用できない。」を加える。

4  原判決一六枚目裏二行目の「証人」の前に「原審」を加え、同三行目の「認めることができるから」を次のとおり改める。

「 認めることができる。

四  そこで、被控訴人ハウジングの被控訴人榎本に対する目黒店、新高円寺店の明渡し及び賃料相当額の損害金の請求について検討する。

被控訴人榎本は平成六年二月末日に新高円寺店をその所有者である小池淳に対して、同年五月一六日に目黒店をその所有者である関根かほるに対して明け渡した旨主張し、《証拠略》によれば、右主張の事実が認められる。しかし、被控訴人ハウジングの右各所有者との間の賃貸借契約が終了したことについては被控訴人榎本の主張、立証しないところであり、弁論の全趣旨によれば、被控訴人榎本は、新高円寺店及び目黒店の自己に対する賃貸人である被控訴人ハウジングに対しては、右各建物を引き渡したことがないことがうかがわれるから、被控訴人ハウジングに対して本件賃貸借契約における賃貸借の目的物の返還義務をいまだ履行していないものというべきである。したがって、」

5 原判決一六枚目裏三行目から四行目にかけての「賃借権を有し又はこれに基づいて各所有者に代位する」を「賃借権を有する」に改める。

6 原判決一六枚目裏九行目から同一八枚目表五行目の「総合して」までを次のとおり改める。

「五 次に、控訴人の被控訴人榎本ら三名に対する損害賠償の請求について検討する。

1  本件フランチャイズ契約には、請求原因2(契約解除権等の定め)の(三)の約定があること、被控訴人榎本秀之及び被控訴人山崎雅弘が本件フランチャイズ契約に基づく被控訴人榎本のニコマートに対する債務についてニコマートとの間で連帯保証契約を締結したこと、ニコマートは、平成七年四月二六日東京地方裁判所において破産宣告を受け、同日、控訴人が破産管財人に選任されたことは当事者間に争いがない。そして、《証拠略》によれば、本件フランチャイズ契約においては、前記請求原因2の各約定のほかに、ニコマートにつき、破産・和議・会社更生・会社整理等の申立てがされたとき、債権者から資産・負債の全面的な管理、整理や、強制執行を受け、あるいは支払停止があったとき、ニコマートが約定に従って行うべき被控訴人榎本の開店のための開業準備を怠った等のため、被控訴人榎本において所定の開業日に開業できないときには、被控訴人榎本において、通知、催告をしないで、直ちに本件フランチャイズ契約を解除することができ、その場合には、ニコマートは、被控訴人榎本に対して、その被った損害に対する賠償として、目黒店、新高円寺店それぞれにつき一か月当たりのロイヤリティの一二〇か月分相当額の金員を支払う旨の約定があることが認められる。

2  右請求原因2の(三)の約定は、特段の事情は認められないから、損害賠償額の予定の約定であるというべきであるが、前記のとおり、本件フランチャイズ契約においてニコマートの提供するコンビニエンスストアの経営に関する情報は、フランチャイズ・システムによるコンビニエンスストアの経営にとって基本的な重要性を有するものであり、同契約の本質的な要素を構成するものであって、重要な財産的価値を有するものである。そして、このような情報が競業他者に漏出した場合には、フランチャイザーとフランチャイジーとの共同の事業としてのコンビニエンスストアの経営全体に著しい打撃を与えることがあり、場合によっては原状回復を図ることはほとんど不可能となる可能性があるが、他に右のような情報の漏出を防止する効果的な手段はなく、また、その情報の漏出によりフランチャイザーであるニコマートの被る具体的な損害の発生及び損害額を特定し立証することは極めて困難であるから、そのような場合に備えて契約の締結に際し、予め定められているロイヤリティを基準にした損害賠償の予定額を定めておくことには合理的な理由があるというべきである。

被控訴人榎本ら三名は、右請求原因2の(三)の約定はニコマートが契約上の優越的な地位を濫用して被控訴人榎本ら三名に合意させたものである旨主張するが、前記二において認定したような本件フランチャイズ契約の締結の経緯及び右1のとおり、本件フランチャイズ契約においては被控訴人榎本の側からする解除の場合にも右約定と同旨の約定がされていることに照らすと、ニコマートが契約上の優越的な地位を利用して本件フランチャイズ契約を締結させたものとは到底認められないから、右主張は失当である。

3  しかし、請求原因2の(三)の約定を一律に適用すると、事案の具体的事情に照らし、右約定による損害賠償の予定額が社会的に相当と認められる額を超えて著しく高額となって、前記のような損害賠償額の予定の趣旨を逸脱し、著しく不公正であるような場合には、右社会的に相当と認められる額を超える部分は公序良俗に反するものとして無効というべきである。

そこで、検討すると、《証拠略》によれば、本件フランチャイズ契約の契約期間は一〇年とされており、右約定におけるロイヤリティの一二〇か月分に相当する額というのは、本件フランチャイズ契約の全契約期間中のロイヤリティに相当する額であることになるが、解除後の契約期間がどの程度残存しているか、ニコマート側において右契約期間の残存期間中、フランチャイザーとしての義務を履行し得る状況にあるかということにかかわりなく、常に全契約期間中のロイヤリティに相当する損害賠償を請求し得るということは社会的に相当とはいえないというべきであり、平成四年四月の本件フランチャイズ契約の解除の時点における契約期間の残存期間は五年半程度であること、ニコマートは、控訴人及び被控訴人ハウジングの自認するところによれば、平成五年六月二四日には事実上倒産している上、前記のとおり、平成七年四月二六日には破産宣告を受けており、被控訴人榎本に対し本件フランチャイズ契約上の義務を履行することはできない状態となったものであり、被控訴人榎本は前記約定により本件フランチャイズ契約を解除することができ、その場合には、以後ニコマートはロイヤリティを取得できないものであることを」

5  原判決一八枚目表九行目の「被告らは、原告ニコマートに対して」を「被控訴人榎本ら三名は、控訴人に対して」に改める。

二 以上の次第で、被控訴人ハウジングの被控訴人榎本に対する本訴請求は理由があるから認容し、控訴人の被控訴人榎本ら三名に対する本訴請求は原判決認容の限度で理由があるから認容し、その余は棄却すべきものであり、原判決は相当であって、控訴人の控訴及び被控訴人榎本ら三名の控訴はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菊池信男 裁判官 村田長生 裁判官 福岡右武)

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